顔面神経麻痺とは
顔面神経とは顔の筋肉を動かすための神経です。
顔面の表情を作り出すために重要な役割を果たしており、
この神経が麻痺することで表情の変化や筋肉の動きに問題が生じます。
顔面神経麻痺の原因
最も一般的な原因はBell麻痺と呼ばれるものです。
Bell麻痺は原因不明の突然発症の顔面神経麻痺で、約7割がこれによるものです。
またウィルス感染によるものも多く、
帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウィルスが原因の場合は、Ramsay Hunt症候群と呼ばれます。
顔の麻痺と耳の発疹、難聴が特徴です。
その他に顔面神経の圧迫、外傷などがあります。
脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、脳炎などが原因でおこるものは中枢性顔面神経麻痺と呼ばれます。
顔面神経麻痺の症状
顔の片側がが麻痺し、表情がうまく作れなくなることが特徴です。
具体的には以下の症状がおこります。
- 眉毛下垂(眉毛がさがる、眉毛が上がらない)
- 眼瞼皮膚弛緩(まぶたの皮膚がたるむ)
- 下眼瞼外反(下まぶたが眼球から離れ、外をむく)
- 兎眼(目が閉じることができない)
- 口角下垂(口角が下がる)
- 涙の分泌異常
- 味覚障害
- 聴覚障害
顔面神経麻痺の治療法
顔面神経麻痺の発症直後は、72時間以内にステロイドや抗ウィルス薬による治療を開始しなければなりません。
症状が出たらまずは耳鼻科や脳神経外科を受診してください。
Bell麻痺は約半年で70%が治癒し、後遺症も残りませんが、
Ramsay Hunt症候群の70%が何らかの後遺症を残すと報告されています。
発症から1年以上経過し、後遺症が残っている場合は後遺症を改善させるために手術が必要となります。
中枢性顔面神経麻痺によるものは症状が重篤になりやすく、治癒も困難で後遺症が残ることが多いです。
眉毛挙上術
眉毛下垂(眉毛が下がる)が起こると、表情に大きくかかわるだけでなく、視界も狭くなります。
眉毛の上の皮膚を切除して、眉毛の位置を上げる手術です。
眉毛の一部を含む皮膚と皮下組織を切除し、眉毛上の皮膚を引き上げて縫合します。
術式 | 左眉毛挙上術 |
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術前 | 左の眉毛が下がっているため、左眼が小さくなっています。 |
術後 | 左眉毛の上の皮膚を切除し、眉毛を挙げると目の大きさの左右差が無くなりました。 |
兎眼矯正術
兎眼(とがん)とは下のまぶたが下がる、もしくは上のまぶたが下がりづらくなり、眼が閉じづらい状態を指します。
眼を十分に閉じることができなくなると、眼の表面が傷つき、ゴロゴロ感や目やに、充血などの症状を来します。
また角膜に細菌が入り感染する(角膜潰瘍)、
角膜が濁る(角膜混濁)など視力低下の原因となる病気を発症する可能性があります。
これらを避けるために手術が必要です。
下記術式で対応します。
外眥・内眥形成術
下眼瞼(まぶた)の外則や内側を短縮することにより兎眼を改善させます。
まぶたの皮膚や結膜、下まぶたの靭帯の一部を切開します。
余分な組織を切除したのち、
まぶたの硬い組織(瞼板)を骨膜や靭帯に縫い付けます。
術式 | 左兎眼矯正術 |
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術前 | 左眼の下まぶたが垂れ下がり外を向き、目を閉じることができない状態です。 |
術後 | 下まぶたを上に吊り上げて、正しい位置に矯正します。 |
眼瞼延長術
上眼瞼に対して、皮膚を切開し、
まぶたを挙げる筋肉群(ミュラー筋や眼瞼挙筋腱膜)を切除することで閉瞼しやすくします。
口角の左右差に対する美容用ヒアルロン酸注入治療(自費治療)
顔面神経麻痺後は表情筋の収縮が左右で異なることから、顔貌の左右差を招きます。
麻痺後の顔の軟部組織は拘縮また下垂が起こります。
美容用ヒアルロン酸注入剤を表情筋の前面に打つことで表情筋の収縮を抑え、拘縮を軽減させます。
また美容用ヒアルロン酸のリフトアップ効果を利用して麻痺側を持ち上げます。
様々な注入法を組み合わせることで、顔貌の左右差を改善させることができます。
手術の副作用、リスク、注意事項
- できるだけ左右差を少なくするように手術を行いますが、完全に左右対称にはなりません。
術後に左右差が大きい場合には再縫合や再手術を行うことがあります。 - 術後に傷が離開したり、出血が起こった場合は再縫合が必要です。
- 術後に再発することがあります。
- 術後感染などで眼窩蜂巣炎がおこることがあります。
- 術後6か月から1年で傷口は目立たなくなりますが、傷あとが目立ったり、ケロイドになることがあります。
- 手術中にまぶたの形を確認するために局所麻酔で行います。
- 手術の痛みを和らげるために、麻酔のクリームや点眼を使用し、鎮静剤や笑気麻酔を使用します。
- 手術中に鎮静剤を使用した場合、嘔気、嘔吐、頭痛、血圧低下、徐脈、呼吸不全が起こることがあります。